映画応援団「シネマエール東北」 - 東北に映画を届けよう!プロジェクト

上映会レポート

■ 2011年07月24日(日)

岩手県陸前高田市 米崎保育園・ゆうぎ室

陸前高田は、今回の震災で最も大きな被害を受けた町のひとつ。


海岸線の砂浜の松林が壊滅し、たった一本の松が残ったことがニュースで大きく報じられました。その松は「希望の松」と名付けられているそうですが、映画ファンとしては、どうしてもアンドレイ・タルコフスキー監督の遺作『サクリファイス』の「いのちの木」を思い出さずにはいられません。


世界が核戦争で終局を迎えた後に残された1本の木......タルコフスキーが、すでに25年も前に今の私たちを予見するような傑作を作っていたことに、改めて感じ入らずにはいられません。


さて、今回の「シネマエール東北」の会場は、陸前高田市の米崎保育園・ゆうぎ室。
ここは、今年開設したばかりで、建物もきれいで上映環境も素晴らしい所でした。
しかしながら、上映が急きょ(上映会の3日前に)決まったこともあって、さすがに宣伝不足で、たくさんの人に集まってもらえなかったことが残念でした。


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上映作品は『カールじいさんの空飛ぶ家』と『男はつらいよ 柴又慕情』です。
上映には、近くの小学校に避難している人たちがやってきてくれました。
その一人が、こんなことを言っていたのが印象的でした。


「今回の震災で、日本人が略奪もなく秩序正しく振る舞ったことが評価されているけれど、みんな、ほんとは辛いのだし、もっと感情を外に出してもいいんだと思う。映画を見て、泣いたり笑ったり、みんな、そうやって感情を外に出してゆけばいいのに」。


これには、なるほど、と思いました。「シネマエール東北」でも、映画の選択する際に、「笑える」とか「ほのぼの」とか、そういう映画になりがちですが、もっと「号泣する映画」や「怒りに震える映画」をやってもよいのかもしれません。


今回も上映前にあいさつをさせてもらいましたが、実は考えていたギャグがありまして、それは、「実は私、血液型がB型でして、いま、大変評判の悪い、B型の九州人なのであります」というものだったのですが、いかんせん、これがまったくウケませんでした(いやはや、お恥ずかしい)。


『男はつらいよ 柴又慕情』は1972年の夏に公開されたシリーズ第9作で、マドンナが27歳の吉永小百合です。もう39年も前の映画なんですね。ちょうど僕が映画を浴びるほど見始めた頃で、僕はこの次の『寅次郎夢枕』(マドンナが八千草薫)からリアルタイムで見ています。今回おいでいただいたみなさんも、おそらくリアルタイムでごらんになった世代でしょう。寅さん映画のツボを心得た笑いが聞かれ、満足した様子でした。


さて、この陸前高田には、津波で自宅が流された跡に黄色いハンカチをつけた大漁旗を立てた人がいます。そのニュースがきっかけとなって、松竹から、ぜひ『幸福の黄色いハンカチ』を上映したいという申し入れがあり、「シネマエール東北」で、野外上映に取り組むことになりました。その打ち合わせに、石段を100段くらい昇った小山にあるお堂で避難説活をなさっている方を訪ねました。


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そのお堂がある高台から陸前高田の平野全体が一望できるのですが、そこをわずか数分で飲み込んだ津波...「ほら、そこの木が赤くなっている所まで津波が来たんだ」と教えてもらったその高さは10メートルくらいでしょうか、想像しようにも想像しきれない情景が、あの日、ここに立ち現れていたという事実に、改めて身の凍る思いがしました。


『幸福の黄色いハンカチ』の野外上映は8月21日に決まり、山田洋次監督もいらっしゃることになりました。僕は残念ながら参加できませんが、これが陸前高田のみなさんを元気付ける上映になることを願ってやみません。

大分シネマ5 田井 肇

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